ヘッドホンのインピーダンスを測定する(簡易版)
ヘッドホンインピーダンスの周波数特性を測定する回路を作ってみます。
測定する原理は「周波数特性の測定」とほぼ同じになるので、先ずはそこを参照してください。
RWS(ver 1.1)のスペアナはインピーダンス測定には不向きな縦軸が対数(dB)
になっていて、分解能も周波数特性モードでは10dB/div固定であるため
大変使い勝手が悪いです。
近くインピーダンス測定モードを追加してバージョンアップする予定ですが、
現状のver1.1で測定するための使い方を今回紹介します。
無料版についてもこの方法がそのまま使えます。
測定環境の準備
基準となる抵抗とCAL用の抵抗の合計2本を用意します。
最低限必要な部品はヘッドホンジャックと
オーディオインターフェイスに接続するためのピンジャック類、抵抗2本です。
抵抗値は測りたいインピーダンスに近い値が良いです。
ヘッドホンの場合は30〜100Ωのものが殆どなので今回は56Ωを選択しました。
自分の場合はオーディオインターフェイスをSGやスペアナなどの
50Ω系の測定器に接続することが多いためSMAコネクタで製作しました。
計測機器に接続する必要がない場合は高価なSMAでなくても
オーディオでは一般的なRCAピンジャックなどが良いでしょう。
上の写真はインピーダンス測定用の抵抗ブリッジです。
今回は抵抗1本だけ使うので他の2本は必要ありません。
後日精密なインピーダンス測定に対応するため抵抗3本で試作していますが、
今回は下の図のように簡単な構成で十分です。
上図の測定端子にヘッドホンを接続しますが配線は短いほど良いです。
数cm程度の配線でも10kHz以上ではf特に影響が見られます。
下の写真に示すように3.5mmジャックをSMAに直接はんだ付けしています。
CAL用の56Ω治具が必要です。
下の写真のような3.5mmプラグのLchに56Ω抵抗をつないだものです。
上にあげたSMAは全てJタイプであるためSMA-J同士を接続するために
SMA-P/SMA-Pの接続コネクタが必要になります。
以上の部材をリストアップした部品表は以下の通りになります。
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品名
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数量
|
価格/個
|
備考
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1 |
SMAコネクタ |
4個 |
250円 |
SMA-J横向き |
2 |
SMA中継 |
1個 |
300円 |
SMA-P/SMA-P |
3 |
3.5mmジャック |
1個 |
65円 |
MJ-074Nなど |
4 |
3.5mmプラグ |
1個 |
50円 |
CAL用 |
5 |
抵抗56Ω |
2個 |
1円 |
1/6W |
周波数特性測定回路
この回路はIQ復調器そのものです。
TGはそれぞれ90°の位相差になっていて、TG1とTG2のように番号が異なると90°位相差になるよう設定されます。
ここでは使用されませんがTG3は更に90°の位相差が付いてTG1とは180°差となります。
このように90°位相差の信号源2個と乗算器2個、出力のLPFで構成されたものがIQ復調器になります。
測定周波数範囲は10Hz〜96kHzで固定です。
TG1 step=50 は上の周波数範囲を50分割でスイープします。
周波数のステップ幅は指数的に増加するためLOG軸上は等間隔になります。
TG2の出力をLch Outputから外部に出力しLch Inputで外部から信号を入力します。
フィルタ後の信号は Ave value1 でバッファサイズ内で平均され内部レジスタvalue1に格納されます。
右下の Fresp は周波数特性を測定するという定義文です。
wait時間ごとに測定値を表示し、TGの周波数を1ステップ進めます。
測定値の計算は以下の通りです。
振幅特性 mag=20log√(value1^2 + value2^2)
位相特性 pha=180/π ATan(value2 / value1)
wait時間はLPFの収束時間から計算します。
t=1/7Hz=0.14sec より少しでも長い時間を設定すべきです。
ただしLPFはIIRフィルタなので回路例より大きな比帯域では不安定になります。
もっと高い周波数から測定するのであれば、スイープを高速化できるでしょう。
このようにTGは単独ではスイープできないのでFresp定義文と必ずセットになります。
インピーダンス測定の準備
写真のようにオーディオインターフェイスと抵抗ブリッジを接続します。
US−366の入出力はヘッドホンやマイクなどに使われる標準プラグになっているため
標準プラグ→50Ω同軸ケーブル→SMAを作って接続しています。
最初にオーディオインターフェイスの内部抵抗を求めます。
内部抵抗は意外と大きな値なのでこれを計算に入れないと大きな誤差になります。
上の回路図はCAL時の回路ですが、
先ずは測定端子(赤)の56Ωがない状態でINPUT Lchの振幅を測りVとします。
その後、測定端子(赤)の56Ωをつないだ状態で再度測定しその値をVcとします。
下の写真のように先ほど作ったCAL用56Ω治具を抜いたり挿したりして測定します。
2つの測定値から以下の式で内部抵抗と56Ωが加算されたrを求めます。
US-366ではV=1.000Vの時、Vc=0.26Vとなりました。
計算結果はr=159.4Ωとなり、内部抵抗は56Ωを引いて103.4Ωとなります。
この値は後でインピーダンスを測定する際に使用します。
内部抵抗が測定できたら次はCALを実行します。
抵抗ブリッジに先ほど測定に使ったCAL用56Ω治具を再度挿し、
RWSの周波数測定回路「net.blk」を実行します。
スペアナの画面表示の掃引が一巡し値が安定したら「CAL」ボタンを押します。
CALボタンを押すと画面は上のようになります。
上の輝線が振幅(10dB/div)で下の輝線が位相(45°/div)です。
インピーダンス測定の方法
CAL用56Ω治具を外して被測定物であるヘッドホンを挿します。
これでヘッドホンのインピーダンスが測定されます。
この時の状態を回路で表現すると以下の通りです。
ちなみにヘッドホンではなく10Ω抵抗を接続した時のものが以下です。
上の振幅の1kHzに注目するとCAL時の値より-13dB程度の値を示しています。
位相はほぼ変化がありません。
振幅の測定値からインピーダンスを算出する方法は以下になります。
測定した対数のx(dB)を真数に変換します。
得られた値aからインピーダンスZを求めるには
計算が結構面倒なので下のようにエクセルでインピーダンスを求めました。
右下にC5とC6のセルに組み込んだ計算式を記述しておきました。
このシートでは内部抵抗と基準抵抗56Ωを分けて r=ro+Rr となっています。
計算結果は9.851Ωとほぼ10Ωを示しています。
このように抵抗ブリッジの構造が簡単なこの方法は測定と計算に手間がかかります。
抵抗ブリッジの抵抗が3個で入力がLchとRchを必要とする方法なら、
内部抵抗測定も事前のCALも不要になります。
この方式はプログラムに改版が必要になるため後日紹介します。
各種実測結果
今回手持ちのヘッドホンをいくつか測定してみたので紹介します。
SONY MDR-CD900ST
これはプロ用モニターヘッドホンの定番モデルで価格は15000円程度のものです。
上の振幅より100Hzのピークは110Ω程度と思われます。
全帯域で60Ω以上ありインピーダンスは全体的に高めです。
位相は100Hz以上で若干容量性を示しています。
オーディオテクニカ ATH-T500
普及型の一般的な密閉型ヘッドホンです。価格帯は4000円程度になります。
100Hzのピークの傾向は同じ密閉型のCD900STに似ていますが、
インピーダンスは全体的に40Ω前後で低いです。
Apple iPhone6付属ヘッドホン
開放式のイヤホンタイプです。
インピーダンスは30Ω以下でかなり低めです。
f特はフラットで位相もほとんど変化していません。
サンプル回路のダウンロード