ノイズを対策して感度をアップ

PiRadioは微弱な電波を受信する基板と、広帯域のデジタルノイズを発生させるラズベリーパイが近接するボードです。 ノイズ発生源が数Vp-pなのに対してPiRadioのアンテナ入力は小さい場合は数uVp-p程度でしかありません。 その差は100万倍、100dBを超えます。
100dBを超えるアイソレーションを取る場合、金属製の密閉された箱の中に基板を隔離するくらいの対策が必要ですが、 それをやるとコスト的に大変厳しくなるため、現実は基板上のレイアウトなどの工夫だけである程度抑え込んでいます。 しかしアンテナがラズベリーパイの近くにあるとハード的なBPFを持たないPiRadioではノイズの影響を強く受けます。
感度が出ない、やたらフロアノイズレベルが高い、といった場合は以下を確認してみてください。

・ホイップアンテナだけで受信する事はノイズ的には最悪
・アンテナの位置がラズベリーパイと十分に離れていない
・ノイズ特性の悪いUSB電源を使用している
・周囲にノイズを出す電子機器がある
・アンテナ同軸の整合が不完全

以下で一つ一つ解説していきます。

ホイップアンテナだけで受信する事はノイズ的には最悪

フルキットにはSMA接続のホイップアンテナが付属していますが、これで微弱な電波を受信する事はほぼ不可能です。 ホイップアンテナはあくまで動作確認用、または強電界の電波を受信するためのものとお考えください。 その理由は以下のとおりです。



上の図は説明が容易な送信の例でアンテナを流れる高周波電流を表しています。 左側は半波長ダイポールアンテナの線路上の電流密度を半円の幅で表しています。 中心の給電部分が電流最大で解放された両端は殆ど流れていません。
右はホイップアンテナの場合で、通常λ/4の長さで使用されます。 この形状をモノポールアンテナと呼び、グランドプレーン(地面やλ/4以上の大きさの金属板)に ダイポールの反対側λ/4が鏡像として現れて等価的にダイポールと同じになります。
注意するポイントはグランドプレーンには高周波の電流が盛大に流れる事です。 つまりグランドプレーンがアンテナの半分になっているため、単なるグランドではありません。 受信の場合でも同じ原理でグランドプレーンは受信アンテナの一部になります。 そのため直下にある基板からのノイズ放射をとても受けやすいわけです。



そうならないために、上の図のようにまずはアンテナとPiRadioを同軸ケーブルで離します。 同軸のシールド部分がアンテナにならないように、アンテナとの整合はしっかり取ります。 市販のアンテナを利用すれば問題ないでしょう。
例えば同軸に直接接続できない平衡給電のダイポールアンテナは不平衡ー平衡変換(バラン)を入れる事で整合されます。

アンテナの位置がラズベリーパイと十分に離れていない

PiRadio本体とアンテナを離す必要がある事はわかりましたが、ではどの程度離せば良いでしょうか。 参考になる指標として自由空間の伝搬損失の公式があります。
これを使ってラズベリーパイが放射するノイズがアンテナでどの程度減衰するか見てみます。



この式をグラフにしたものが以下です。
150MHz、450MHz、1500MHzで計算してあります。



これを見ると5m以上離せば至近距離50cmに対して減衰量が20dB以上あるため影響は小さくなります。 実際の運用でも5m以上離れていれば実用的な感じだと思います。 少なくとも2mつまり-10dBはないと使えない印象でした。



実際に使ってみた印象では上の写真くらいはアンテナと本体を離す必要があります。
勿論、PiRadio全体をシールドするというのも効果がありますが、 ラズベリーパイのBluetoothやWiFiが使えなくなります。

ノイズ特性の悪いUSB電源を使用している

これは以外と意識されていない落とし穴です。
一般的にスイッチング電源(DC/DCコンバータ)は盛大にノイズを発生されるものが見受けられます。 中にはオシロで見ただけでは問題ないように見えてもスペアナで見ると数百MHz帯域でノイズまみれの例もあります。

ラズベリーパイでよく使われる以下のUSB電源アダプタですが、これを使うとPiRadioのフロアノイズが10dB以上悪化しました。 当然-100dBm以下の微弱な信号の受信はできなくなります。



この電源を使った時のPiRadio動作中のUSB電源(+5V)のノイズ波形は以下です。なんと0.8Vp−pもノイズがあります。


下の写真はスペアナに20cmのアンテナを付けて、環境のノイズ(下側)と上のUSB電源に1Aの負荷をかけて USBケーブルから放射されるノイズ(上側)をピークホールドをかけて測定、比較したものです。 ピークで-56dBmという大きな値です。他のどの電磁波よりも強力であるばかりでなく、帯域も50MHz〜600MHzまで広がっています。



可能であればリニア電源の使用、またはリニアレギュレータをスイッチング電源の後に通すのが理想です。 スイッチング電源でもリプル+スパイク電圧が1Aの負荷で100mVp-p以下であれば問題ないと思います。
また上のようなUSB電源は近くで使ってるだけでUSBケーブルから広帯域のノイズを放射するので、とにかく使わない事が一番です。

周囲にノイズを出す電子機器がある

これまで経験したノイズ源として以下のものがありました。

・Ethernet機器とケーブル
・USB充電器(負荷時)
・安価なUSBバッテリー

USBバッテリーは内部にDC/DCコンバータが入っているためUSB電源と同じで要注意です。 ダメなものはアンテナが遠くにあってもフロアノイズを悪化させます。 パソコンやモニターは様々な機種で確認しましたがアンテナから離れていれば問題ありませんでした。

アンテナ同軸の整合が不完全

同軸ケーブルの劣化やコネクタの不良、緩みなどで不整合が発生しているとノイズを拾いやすくなる事があります。

特にお薦めできないのが以下の写真の例です。



SMAコネクタの一種でケーブルを直にハンダ付けできるタイプのものですが、ノイズを大変拾いやすくなります。 中心導体がむき出しになるのと、整合状態が良くない事も原因だと思われます。

パネルを貫通させる場合は必ず以下のようなSMA部材を使ってください。