HFをできるだけ簡単に受信する
最近PiRadioレシーバーソフトではSSB復調機能強化が進んでいますが、SSBといえばやはりHF帯です。
しかしPiRadioの受信範囲は50MHz〜2GHzなのでそのままではHF帯3MHz〜30MHzの受信はできません。
HF帯を受信するためにはアップコンバータを自作してPiRadioが受信できる範囲の50MHz以上に周波数変換する必要があります。
シングルバンドならなんとか自作可能でも3MHz〜30MHzもの広帯域のアップコンバータを作るにはかなり大変です。
しかし手持ちの広帯域短波ラジオを改造すれば、条件によってはアップコンバータを簡単に実現できます。
実はこれが簡単なわりには意外と実用的だったため手持ちの短波ラジオがある方は試してみる価値はあると思います。
短波ラジオをアップコンバータにできれば、短波ラジオで受信したい帯域の中心あたりを大雑把にチューニングしておいて、
PiRadioレシーバーソフトを使ってスペアナ表示、マウスクリックによる選局や高速スキャンなどこれまで同様にできます。
また当然ですが、連続可変のデジタルフィルタや各種復調機能も同様に使用可能です。
では、アップコンバータに改造可能な短波ラジオとはどんな物でしょうか。
① IF周波数が50MHz以上であること
② 3MHz〜30MHz連続で受信可能なラジオのなかに①を満たす物がある
③ ANT入力端子があることが望ましい
④ できれば回路図や基板図が入手できる事が望ましい
現行機種で安価な並行輸入品が流通していて、たまたまサービスマニュアルが入手できたのがソニーのICF-SW7600GRでした。
ここからは7600GRを使う前提で話を進めます。
改造するとメーカー保証やサービスを受けられなくなると思われますから、改造は自己責任でお願いいたします。
改造するポイント
下のブロック図から最適な取り出しポイントはXF(55.845MHz)の後ろのバッファQ111出力が良さそうです。
ここから分岐させて外部に信号を出力できるように改造します。
SGとスペアナを使って実測した短波ラジオのANT端子→IFフィルタバッファ出力の通過特性は以下になります。
フラットトップの部分が20kHz以上はあるためスペアナのBW=25kHz〜50kHzで使うと良さそうです。
つまり25kHz〜50kHzの範囲なら短波ラジオの周波数を固定してPiRadioだけでチューニングやスペアナ表示ができることになります。
25kHz〜50kHzは決して広くはありませんが、7MHz帯では常時複数の局がスペアナに観測されます。
追加バッファ回路
IF信号に影響を与えずに信号だけ取り出せるように高インピーダンス入力、
低インピーダンス出力のFETバッファを追加します。
FETはVHFチューナー用の2SK211(秋月電子で400円/10個)を使用し、
低インピーダンスの同軸ケーブルを駆動できるようソースフォロアにしています。
基板上で各信号を取り出すポイントは以下の通りです。
小さな基板を削って下の写真のように実装しました。
IF信号取り出し部分のコンデンサは写真では560pFですが1000pF程度であれば問題ありません。
直径1.5mm以下のかなり細い同軸ケーブルが必要なのでケーブル専門店で探して見てください。
短波ラジオはこれまで通り普通に使えるようにするため、
あまり利用しないLINE OUTジャックを改造してIF信号を取り出せるようにします。
下の写真のようにLINE回路のコンデンサを外して同軸をLINE OUTのR側に配線します。
外部IFケーブル
短波ラジオのLINE OUT(3.5mmステレオミニジャック)とPiRadioのANT(SMAメス)を接続する外部IFケーブルを作ります。
SMA-SMA同軸ケーブルを購入し、片方を切断、上の写真のように3.5mmステレオミニプラグを接続します。
4極のものを使う場合、GNDが接続されない事があるため、写真のように3極目の端子をGNDに接続する必要があります。
ソフトウェアのダウンロードとコンパイル方法
HF受信に対応するため若干の操作性を変更しておりますが、V/UHF受信でも問題はありません。
レシーバソフトウェアは
こちらから最新版をダウンロードしてください。
ダウンロードしたソースコードをPiRadio ディレクトリの下に置きます。
ソースコードのコンパイル方法
$ cd PiRadio
$ g++ -I/usr/include/X11 -L/usr/X11 -o piradio piradio.cpp -lX11 -lasound -lm
コンパイル時間は数秒です。エラーやワーニングが出なければ正常終了です。
受信してみる
短波ラジオの周波数設定を受信したいバンドの中心付近に合わせます。
ここでは7050kHzとしました。
PiRadioの周波数などの設定は最初は以下のようにします
Center = 55.845MHz
Span = 50kHz
FIR BW = 48kHz
IIR BW = 48kHz
上のSpan=50kHzではXFの肩特性が見えるため両端のフロアが10dB程度下がっています。
下はSapn=25kHzなのでほぼフラットになります。
下は7MHz帯SSBのアマチュア局を受信している様子です。(画面の中心部分のスペクトラム)
7MHz帯はLSBのはずですがMODEはUSBにします。
この短波ラジオの構造上、逆ヘテロダインとなるためLSB/USBが入れ替わります。
また周波数の上下も入れ替わるためPiRadio上の右側が低い周波数、左端が高い周波数になります。
この短波ラジオ(ICF-SW7600GR)の場合、実際に受信している周波数は以下のように求めます。
受信周波数(MHz):f = fr + fi - fp
fr:短波ラジオの受信周波数(MHz)
fi:取り出しているIF周波数(MHz)
fp:PiRadioの受信周波数(MHz)
受信周波数:f = 7.050 + 55.845 - 55.8389 = 7.0561(MHz)
USBとして受信するため上のようにスペクトラムの左端が中心になるようにPiRadioのCenterを合わせます。
この状態で復調モードにすると以下のようにオシロ表示になり音声が出ます。
SSBモードでは基本はFIR BWは48kHzでIIR BWを5kHz程度まで絞ります。
信号が弱くて音声が聞き取りにくい場合はGain調整を大きくします。
フィルタ設定のヒント
復調/スペアナ切替は「スペース」キーまたはマウスの右クリックなどで行えるため、
スペアナで信号を補足して、直ちに復調するという動作が可能ですが、この操作ではこれまでスペアナがSpan=1.0MHz固定でした。
V2.42以降は復調/スペアナ切替の際も直前までの設定を保持するため、
SSBのような狭い範囲に多くの局が密集するスペクトラムでも操作しやすくなっています。
復調/スペアナ切替の際、これまではSpan=50kHz以下ではFIR/IIRフィルタの通過特性を含んだスペクトラムが表示されてましたが、
SSBではSpan=50kHz以下で選局動作を行う事が多くなるため、
Ver2.42以降ではFIR/IIRフィルタの通過特性を含まないフロアレベルがフラットなスペクトラムを表示するようにしています。
FIR/IIRフィルタの通過特性を確認する場合、スペアナ表示の状態のままFIR/IIRを調整すると、
その時だけ下のようフィルタ通過特性が表示されます。
上の例はFIR BW=48kHz、IIR BW=3kHzのフィルタ特性が表示された状態でUSBの実信号を受信している様子です。
(実際は7MHz帯のLSB)
近傍に妨害波がある場合、下のように更にFIRも絞って帯域を狭く急峻にすることも可能です。
この場合、Hilbertフィルタのリプルなどの影響でサイドバンド抑圧特性が悪化するため、
USBの場合は上の画面で左半分の妨害波の影響を受けやすくなります。(LSBはその逆)
実際の状況に合わせて最適な設定を使い分けてください。